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YMOの戦略的オリエンタリズム
音楽
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YMO(Yellow Magic Orchestra)は1970年代後半から1980年代にかけて世界を席巻し、のちの電子音楽やポップ・ミュージックに多大な影響を与えました。彼らはシンセサイザーやシーケンサーによる自動演奏という最新テクノロジーの導入に留まらず、きわめて批評的かつ戦略的なコンセプトを音楽に内包させていました。彼らのバンド名「イエロー・マジック」や、初期の代表作に現れている、当時のグローバルな文化文脈において最も革新的と評されたアプローチはどれでしょう?
ヒントをみる
西洋が東洋に抱くエキゾチシズムを逆手に取ってパロディ化し、ゲームサウンド等の最先端テクノロジーと融合させたこと
雅楽の「12律」に代表されるアジアの伝統的な音律を、世界に先駆けて完全にデジタル合成・再現したこと
アフリカの民族音楽に見られるポリリズムを、当時のスーパーコンピューターを用いて全自動でアルゴリズム作曲したこと
クラシック音楽の和声理論を徹底的に解体し、12音技法や無調音楽による前衛芸術をポップスとして再定義したこと
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詳細解説
YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)は、細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一の3人によって1978年に結成されました。当時の欧米の音楽シーンでは、ドイツのクラフトワークに代表される無機質で冷徹なテクノロジーサウンドが台頭していましたが、YMOは「東洋人から見た電子音楽」という極めて戦略的なコンセプトを打ち出しました。 彼らは、西洋人が抱くアジアへのステレオタイプ(エキゾチシズムやオリエンタリズム)を自覚的にパロディ化しました。「イエロー・マジック」という言葉自体、白人による「ホワイト・マジック(白魔術)」、黒人による「ブラック・マジック(黒魔術)」に対し、黄色人種である自分たちの音楽を皮肉を込めて位置づけたものです。「東風(Tong Poo)」や「中国女(La Femme Chinoise)」といった初期の楽曲では、あえてチャイナ風のメロディやステレオタイプなアジアの音階をシンセサイザーで演奏しました。これは思想家エドワード・サイードが提唱した「オリエンタリズム」を逆手に取った「セルフ・オリエンタリズム」の先駆的実践とも言えます。 さらに、デビューアルバムでは、当時大ヒットしていた『スペースインベーダー』などの日本のアーケードゲームの音(SE)を取り込みました。これは、当時まだ「チープなノイズ」と見なされていたゲームサウンドを、高度なアート・ポップスへと昇華させた初の試みであり、のちのチップチューンやゲーム音楽、ひいてはヒップホップにおけるサンプリングカルチャーの先駆けとなりました。 このように、最先端の電子楽器を用いた技術的な先進性と、記号論的・文化批評的なアプローチが高度に融合したことこそが、YMOが世界の音楽史にその名を刻んだ理由です。
学習ポイント
セルフ・オリエンタリズムの戦略:西洋がアジアに対して抱く記号的イメージを逆手に取り、主体的にパロディ化して世界市場に提示した。
ゲームサウンドの先駆的導入:アーケードゲームの電子音をいち早く音楽に取り入れ、後のチップチューンやサンプリング文化の基礎を築いた。
冷戦期とテクノロジーの受容:ドイツの「クラフトワーク」が体現した機械主義とは異なる、アジア的でポップかつ批評的なテクノロジーの受容形態を示した。
3人の異なる音楽的背景:ジャズ、フュージョン、フォーク、現代音楽、ポップスといった異なる専門性を持つメンバーが、電子楽器を媒介として奇跡的な融合を果たした。
関連知識
YMOの戦略を理解する上で重要なのが、文芸批評家エドワード・サイードが1978年(奇しくもYMO結成と同年)に著した『オリエンタリズム』です。これは、西洋が東洋を「他者」として都合よく解釈・支配してきた構造を批判した理論です。YMOは、この構造を直感的に(あるいは坂本龍一らの学術的知見から)捉え、あえて過剰な東洋らしさを演じることで、西洋の聴衆に知的かつユーモラスな揺さぶりをかけました。 また、技術的な側面では松武秀樹(「第4のメンバー」と呼ばれる)の功績が挙げられます。彼が操った巨大なモジュラーシンセサイザー「Moog III-C」や、シーケンサー「Roland MC-8」は、ミリ秒単位での音符入力が必要な極めて根気の要る機材でした。これらを正確に制御し、熱狂的なグルーヴを宿らせた彼らのプログラミング技術は、のちのアシッド・ハウスやデトロイト・テクノといった世界のクラブミュージックにも決定的な影響を与えました。
出典
細野晴臣・坂本龍一・高橋幸宏『YMO BOOK』(小学館)
エドワード・サイード『オリエンタリズム』(平凡社ライブラリー)
田中雄二『電子音楽 in JAPAN』(アスペクト)
参考文献・参考資料
坂本龍一『音楽は自由にする』(新潮社)
松武秀樹『シンセサイザーと僕』(プログラミング・カオス)
NHKアーカイブス「YMOの軌跡とテクノ・ポップの誕生」
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