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細野晴臣の「観光音楽」とエキゾティシズム
音楽
20歳
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1970年代後半、細野晴臣はブライアン・イーノが提唱した「環境音楽(Ambient Music)」の受動的なアプローチに対抗し、リスナーが自ら仮想の異郷を旅するような、能動的かつ構築的なエキゾティシズムを内包した独自の音楽概念を提唱しました。『トロピカル・ダンディ』や『泰安洋行』といったソロ作品の思想的背景となり、音楽を「記号の消費による疑似旅行」として再定義したこの概念の名称は何でしょうか。
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観光音楽
環境音楽
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詳細解説
1970年代後半、細野晴臣が提唱した「観光音楽(Sightseeing Music)」は、単なる音楽ジャンルの提示を超えた、極めて批評的な音楽概念です。当時、ブライアン・イーノが提唱した「環境音楽(Ambient Music)」が、聴き手の意識を邪魔しない受動的な空間の構築を目指したのに対し、細野は、聴き手が音楽を通じて能動的に未知の領域や架空の異国へとトリップする体験を志向しました。これは当時台頭しつつあったポストモダン的な「記号消費」の動きとも合致しています。 彼の「トロピカル三部作」(『トロピカル・ダンディ』『泰安洋行』『はらいそ』)において、細野は中華風のメロディやハワイアン、沖縄音楽、ニューオーリンズ・セカンドラインなどをチャンポン(混淆)し、ディープなエキゾサウンズを作り上げました。ここには、エドワード・サイードが『オリエンタリズム』で批判した「西洋から見た歪んだ東洋観」をあえて自覚的に演じ、パロディ化(自己オリエンタリズム化)する高度な知性が働いています。この「観光のまなざし」を逆手に取った批評精神こそが、のちにイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)として世界進出する際、ステレオタイプな東洋人像(赤い人民服や弁髪)をあえてハックして提示する戦略へと直結していくことになります。
学習ポイント
環境音楽(アンビエント)との対比:受動的な音響空間に対し、能動的な「疑似旅行」として機能する音楽のあり方を提示した点。
自己オリエンタリズムの批評的実践:西洋が消費する「キッチュな東洋像」を自覚的にサンプリングし、パロディ化する高度な表現戦略。
ポストモダン文化との接続:1970年代の消費社会において、音楽が「記号」として流通・消費される事象をいち早く予見した先駆性。
YMOのコンセプトの源流:「観光音楽」における記号のハックが、後のYMOにおけるテクノ・オリエンタリズムの戦術へと結実した。
関連知識
細野が影響を受けた1950年代の「エキゾティカ(Exotica)」音楽(マーティン・デニーやレス・バクスターなど)は、アメリカの市民が手軽にステレオタイプな南国情緒を消費するために作られた家庭用BGMでした。細野はこれを単に懐古主義的に消費するのではなく、テクノロジーと批評精神によって切断・再構築しました。この手法は、現代のインターネットミームから生まれた音楽ジャンルである「ヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)」における、チープな商業音楽のサンプリングや、過去への「架空の郷愁(アネモイア)」の表現とも深く共鳴しています。
出典
細野晴臣 著『とまっていた時計がうごきはじめた』(平凡社、2001年)
細野晴臣・鈴木惣一朗 著『分福茶釜』(平凡社、2009年)
参考文献・参考資料
門間雄介 著『細野晴臣と彼らの時代』(文藝春秋、2020年)
エドワード・W・サイード 著、今沢紀子 訳『オリエンタリズム』(平凡社、1993年)
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