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坂本龍一『async』とジョン・ケージ:音響の脱構築
音楽
20歳
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坂本龍一が2017年に発表したアルバム『async』では、雨音、風の音、落ち葉を踏む音などの環境音や非楽器音(ノイズ)が、伝統的な楽器音と等価な音楽構成要素として扱われています。これは、伝統的な西洋音楽の構造(メロディ、ハーモニー、リズム)から脱却し、音そのものの物質性と「あるがままの存在」を受け入れようとする試みです。このような坂本の音響哲学は、20世紀音楽において「非意図性(non-intentionality)」や「偶発性」を導入し、環境音や沈黙をも音楽として再定義したどの作曲家の思想と最も深く共鳴しているでしょうか?
ヒントをみる
ジョン・ケージの非意図性の哲学
ピエール・シェフェールのミュジック・コンクレート理論
テオドール・アドルノの批判的音楽理論
アルノルト・シェーンベルクの十二音技法
Learning Guide
この問題をもっと深く学ぶ
詳細解説
坂本龍一の晩年の傑作『async』(2017年)は、彼が病を克服した後に「誰のためでもなく、ただ自分が聴きたい音」を追求して作られたアルバムです。ここでは、ピアノの音やシンセサイザーの音に並んで、雨の音、庭を歩く足音、金属を擦り合わせる音といった、通常の音楽文脈では「ノイズ(非音楽)」として排除されがちな音が等価に配置されています。 この思想的背景にあるのが、20世紀アメリカの作曲家ジョン・ケージ(John Cage)が提唱した「非意図性(non-intentionality)」の哲学です。ケージは、作曲家が音を意図的にコントロールして構築する従来の西洋音楽を批判し、音そのものが自律して存在する状態、すなわち「あるがままの音」を肯定しました。彼の代表作『4分33秒』は、沈黙を通じてその場に流れる環境音を聴く行為自体を音楽に変容させました。 誤解しやすい点として、ピエール・シェフェールの「ミュジック・コンクレート」があります。これは録音された自然音を素材として使用しますが、それをテープ編集によって加工し、新たな「構造」へと組み立て直す手法(作曲家の意図による再構築)であり、音を「あるがまま」に放置しようとするケージや坂本の態度とは異なります。また、シェーンベルクの「十二音技法」は、音高(ピッチ)を厳密に組織化する数学的アプローチであり、環境音の受容とは対極に位置します。坂本は、西洋の二項対立(音楽/ノイズ、主観/客観)を融解させる独自の東洋的・エコロジカルな視座から、ケージの思想を21世紀にアップデートしたと言えます。
学習ポイント
坂本龍一の『async』にみる「楽音」と「ノイズ(環境音)」の等価な統合
ジョン・ケージが『4分33秒』等で示した「非意図性(non-intentionality)」と「あるがままの音」の哲学
録音音源を加工・再構築する「ミュジック・コンクレート(シェフェール)」と、音の自律性を重んじるケージの思想的差異
伝統的な西洋音楽の構造主義(メロディや機能和声)に対する、20世紀以降の音響存在論的批判
関連知識
この思想は、1970年代にブライアン・イーノが提唱した「アンビエント・ミュージック(環境音楽)」や、カナダの作曲家レイモンド・マリー・シェーファーが提唱した「サウンドスケープ(音景)」の概念へと繋がっていきます。サウンドスケープは、環境を音という観点から捉え直す学際的な試みであり、エコロジー運動とも深く結びついています。坂本龍一の晩年の活動も、この音響生態学(Acoustic Ecology)的な実践として位置づけることができます。現代のASMR現象やノイズミュージックの受容も、これら「聴覚の脱構築」の系譜から読み解くことが可能です。
出典
坂本龍一『音楽は自由にする』(新潮社、2009年)
ジョン・ケージ『サイレンス』(小沼純一訳、水声社、1996年)
『Ryuichi Sakamoto: CODA』(映画、スティーブン・ノムラ・シブル監督、2017年)
参考文献・参考資料
NHK「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」第4巻(現代音楽編)
若尾裕『サティとケージ:生成する音楽』(青土社、2012年)
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