スイングバイ(重力アシスト)は、天体の重力を利用して宇宙探査機の軌道と速度を変更する技術です。推進剤(燃料)をほとんど消費せずに大幅な加減速が可能なため、深宇宙探査には不可欠です。
この現象を物理学的に理解するためには、**基準座標系の選択**が重要です。
1. **惑星を基準とした座標系(惑星静止系)**:
探査機は無限遠から惑星の重力に引き寄せられて加速し、最接近した後に再び遠ざかりながら減速します。重力は保存力であるため、エネルギー保存の法則により、進入時の速度 vrel と脱出時の速度 vrel′ の大きさは等しくなります(∣vrel∣=∣vrel′∣)。つまり、惑星基準では速度の向きが変わる(偏向する)だけで、速さは変化しません。
2. **太陽を基準とした座標系(太陽静止系)**:
惑星自体が太陽の周りを公転速度 V で運動しています。探査機の太陽に対する速度 v は、惑星に対する相対速度 vrel と惑星の公転速度 V のベクトル和です。
v=vrel+V
探査機が惑星の**公転方向の後方**から進入し、公転方向へと曲げられて脱出する場合、脱出時の太陽基準の速度 vout は、入射時 vin よりも大きくなります。最大で惑星の公転速度の約2倍の速度変化(Δv≈2V)を得ることができます。
これは、運動する巨大な壁(惑星)に軽いボール(探査機)を弾性衝突させる物理現象と等価です。運動量保存の法則により、探査機が加速した分、惑星の公転運動エネルギーは極めて微小ながら減少しますが、惑星の質量 M は探査機の質量 m に比べて圧倒的に大きいため(M≫m)、惑星の軌道や速度への影響は無視できます。